デジタルトランスフォーメーション。
DXと略されたその単語は、2018年頃からビジネスシーンで流行し、多くの企業が「デジタル化(≠DX)」に取り組み始めました。
実は、当記事執筆時点(2022/06)において、日本国内における流行は、2021年4月をピークに右肩下がりです。
そもそも「DX」については、世間的に本質が理解されていない代表的なトレンドワードのひとつです。企業広告や様々な記事を読む限り、多くの経営者はDXを単なる「IT化・デジタル活用・デジタル化による効率化」と考えています。
この記事では、DXの起源と近年、再定義されたDXについて紹介したいと思います。
この章では、DXという単語の起源、2018年以降におけるDXの意義、日本で認識されるきっかけとなった経済産業省のDXレポート等について、紹介します。
DXという単語は、2004年、スウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が論文で提唱したもので、以下のように定義されています。
<当初のDXの定義>
「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」
“Information Technology and the Good Life” 〜DXの論文
これは非常に簡潔に書かれた定義で、いわば論文の見出しのようなものです。当然ながら、原文となった論文には詳細かつ具体的にDXの意味・目的が書かれています。
なお、2004年といえば、日本では第2次小泉内閣の時代で、まだ現在のスマホすら発売されていません。
※iPhoneの日本上陸は2008年
もう一度、振り返ってみましょう。
「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」
そうです。今現時点において、日本の多くの経営者が考えるDXは、正にこの文面なのです。
つまり、DXという単語が生まれた2004年、世界でスマホすら普及していない時代の定義を、2022年の現在において信じ込んでしまっているのです。
2004年に誕生したDXという単語が、なぜ突如として2018年に流行したのか、なぜ、今更IT化が叫ばれるのか、何ら疑問も抱かずに、単なるIT化を目指しているのです。
「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」
このような定義が2020年代に叫ばれるのは、常識的に考えておかしいのです。例えば、「FAXの代わりにEメールを使う」「クラウドストレージを使う」「スマホを使う」「ネットワーク機能を有したコピー機を使う」。
それらはすべてITによる生活の向上とも言えるでしょう。そして、過去のDXの定義をそのまま信じ込んでしまっているのであれば、それがDXという解釈になります。
その程度のIT活用が、2020年現代、注目を浴びるはずがないのです。現代は、GAFAを筆頭とした海外の巨大IT企業が、日本の既存産業を破壊している時代です。
テレビ業界、音楽業界、小売り業界。わずか数年で、多くの既存産業がどれだけ衰退したのか分かりますか?
稚拙なIT化を目指している場合ではないのです。
では、DXをどのように解釈すればよいのか。
当サイトでは、2018年がDXの再定義の年として説明します。
当記事のタイトルにもなっていますが、DXは経済産業省のDXレポート無しには語れません。なぜなら、DXレポートには日本企業に迫られる変革、GAFAを筆頭とする海外IT企業の脅威が記されているからです。
「生活を良い方向に」や「より便利に」といった生ぬるいお話ではなく、日本の既存産業の生死がかかった極めて重要かつ緊急性の高い状況への警告なのです。
2018年に経済産業省より発表された「DXレポート〜IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開〜」。
このレポートでは、あらゆる産業でこれまでにないビジネスモデルを構築し、ゲームチェンジが起きつつあること。そして、企業がデータを有効に活用できない老朽化システム(レガシーシステム)を使い続けることの危機感と経済的損失。
そして、間もなく本格的に訪れるIT人材の圧倒的不足(2025年の崖)が警告されています。
DXについて知りたい方や、「我社はDXに取り組んでいる」という経営者は必ず目を通すべきレポートです。
「DXレポート」には明記はされていないものの、最も大きいのはGAFAの存在でしょう。
企業からわずか10数年で、世界の市場を席巻し、何十年も続いてきた既存残業を瞬く間に破壊した事実は、脅威でしかありません。
例えば、Amazonのおかげで、購入者のレビューを見ながら商品を購入する文化が根付きました。高価な家電製品であっても、購入者のレビューやYouTubeで解説を見ることで、現物を見ずに購入することに、不安も違和感も感じなくなりました。
リアルの大型電化製品店などに与えたダメージが大きいことは容易に想像できます。
同じく、メディアの力もテレビ・ラジオといったマスメディアから、インターネットやSNS、YouTubeというインタラクティブなメディアに移り変わりつつあります。
つまり、現在、「広告力」はテレビよりも、インタラクティブなメディアのほうが強いのです。企業は、テレビに広告に資金を投じるよりも、インタラクティブなメディアに資金を投じるようになりました。
テレビ業界の衰退とは、ユーザー離れに伴うスポンサー離れによる資金の減少が原因なのです。
GAFAがいかに大きな影響を与えているか、よくご理解いただけたかと思います。
前章では、DXの誤った認識に対する解釈、DXの起源、DXレポートなどについて触れましたが、この章では、DXの真髄である「データの有効活用」について説明します。
前章で説明したように、DXとは単なるITサービスのことではありません。
では、DXでいう「データ活用」とはどのような概念なのか。身近な実例で考えてみましょう。
Amazonは、単なるインターネットショップのサイトではありません。
世界中のユーザーから購買データを収集しています。結果、何らかの商品を購入した顧客に対して、適切な商品をレコメンドすることができます。これは、データが蓄積すれば蓄積するほど、精度が高まる仕組みになっています。
動画ストリーミングサービスを展開するNetFlixでも、データ活用は欠かせない存在になっています。
NetFlixのようなサービスは、「顧客に飽きられたら最後」というビジネスモデルになっており、所有する観きれないほどのコンテンツによって、顧客を維持することが生命線になっています。
Amazon同様、大量の顧客の視聴データを活用して、「A作品が好きならB作品も好きな傾向にある」という分析を実データから判断してレコメンドの精度を高めています。
これも、やはり世界中に跨る大量の顧客の視聴データを活用することで実現しているのです。
この例で紹介した2社が、従来では考えられないくらいのスピードで既存産業を破壊しながら、世界規模で成長したことを考えると、DXが単なるITサービスとは決定的に異なることが理解できるでしょう。
前節のように、企業が収集可能なデータは使いようによっては強力な武器、資産となります。一方、使わない(使えない)データは、ただストレージの容量をひっ迫するゴミです。
データを最大限に活用するための仕組み作り・戦略が「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」なのです。
そして、企業のDXを阻害する最大の要因と想定されるのが、老朽化したシステム(レガシーシステム)であり、IT人材がより枯渇する2025年までに何らかの対策が必要と警告しているのが、前記、経済産業省が発表した「DXレポート」です。