ChatGPTの登場によって、誰でもAI(人工知能)を身近に使えるようになりました。
AIの民主化によって、ITは飛躍的な進化を遂げるでしょう。これまで体験したこともないスピード感で時代は変化していきます。
今回は、ChatGPTと2017年頃から国内で話題になったRPAの関係性について記事にしたいと思います。ChatGPTのような高度なITツールによって、RPAは廃れていくというご意見もありますが、RPAとChatGPTは目的が異なるテクノロジー。
お互いの未来は、競争ではなく『拡張』です。
RPAとChatGPTの関係性や未来を考えるうえで、まずは、それぞれについて簡単におさらいしておきます。
RPAはパソコン上の事務作業を自動化することを目的としたITツールです。当時、国内では画期的なツールとして脚光を浴びましたが、RPAの正体は「ビジュアル化されたプログラミングツール」であり、要はプログラミングを少し簡単にしたツールです。
事務作業の自動化自体は、パソコンが浸透した時期から環境的には可能であり、RPAの誕生によって初めて実現したわけではないのです。
とはいえ、JavaScriptやPythonといったプログラミング言語は一般に身近な存在ではありませんので、RPAの存在価値は高いと考えられます。
また、世間的に「自動化」に対する意識が高まったのもRPAの功績です。RPAの将来性については後述します。
RPAは事務作業自動化を目的にしたITツール
ChatGPTはAIが搭載された対話型の言語モデル。高度な自然言語処理の技術によって、従来とは比べ物にならないほど、自然な言語を用いて人間とコミュニケーションをすることが可能です。
ChatGPTはRPAとは異なり、汎用的な事務作業、たとえば「データ入力」や「データの転記」といった分野では現在のところ、直接的な活用はできません。
情報収集や文章の生成、人間とのコミュニケーションが現在の主要な活用分野です。現時点では、RPAとの関係性は無いように見えますが、実際はそんな単純なお話でもありません。
ChatGPTは高度な自然言語処理が搭載されたITツール
前章でRPAとChatGPTについておさらいしましたが、現時点では直接的な関係性を持っていないにしろ、ChatGPT(AI)はRPAにも大きな影響を与えることが確実です。
現在は、人間がワークフローを作成することでしか稼働しなかったRPAが、ChatGPTのように人間の言語を理解することが可能になった今、これまでとは違うRPAの未来が見えてきます。
現在のRPAにはAIが活用されていません。正確には、部分的にAIが搭載されているRPAもありますが、正直、人間の知能を代替するような実用性は持っていません。
この記事は「RPAとChatGPT」をテーマにしていますが、ChatGPTのような高度なAIが誕生したことによって、AIの分野はChatGPTに限らず飛躍的な進化をとげて、さまざまなビジネスツールへのAI活用が実現するでしょう。
整理すると近年のAIの発展によって身近になったAIがRPAにも活用され、より高度な自動化が可能になるのです。
実際に、RPAの黎明期、総務省は「RPAのクラス」という資料を発表しています。下記で紹介します。
クラス | 主な業務範囲 | 具体的な作業範囲や利用技術 |
クラス1_RPA Robotic Prosess Automation | 定型業務の自動化 | ・情報取得や入力作業、検証作業などの定型的な作業 |
クラス2_EPA Enhanced Process Automation | 一部非定型業務の自動化 | ・RPAとAIの技術を用いることにより非定型作業の自動化 ・自然言語解析、画像解析、音声解析、マシーンラーニングの技術の搭載 ・非構造化データの読み取りや、知識ベースの活用も可能 |
クラス3_CA Cognitive Automation | 高度な自律化 | ・プロセスの分析や改善、意思決定までを自ら自動化するとともに、意思決定 ・ディープラーニングや自然言語処理 |
現在のRPAはクラス1の「定型業務の自動化」ですが、クラス2ではAI技術が搭載され、将来的に自動化のレベルが高まることが示されています。表内、自然言語解析や画像解析といった部分が、ChatGPTなどによって民主化され身近になったのです。
そして、実際にChatGPTにも使われているマシーンラーニング(機械学習)やディープラーニング(深層学習)の発展によって、プロセス、つまり業務手順を自ら解析して自動化するようなテクノロジーも技術的には可能になるのです。
RPAにAIが搭載され、より高度な自動化が実現することは間違いありませんが、わたしは前節で紹介したような「プロセスの分析や改善、意思決定まで自動化される」は実現しないと考えています。
マシーンラーニングやディープラーニングの技術によって、AIが自己学習しプロセス分析が可能になることは事実ですが、そのためには「大量の学習データ」が必要です。
「大量の学習データ」は、通常、1企業で収集できるレベルの量ではなく、世界規模で収集する必要があります。
事実、ChatGPTで使われている学習データは、世界中のWebサイトや書籍、SNSなどから収集されており、それらを解析することによって自然言語を扱えるようになっています。
もちろん、あらゆる質問に答えるChatGPTと1企業の事務作業で必要とされる学習データの量は違います。
ただし、RPAの得意とする事務作業の自動化は企業や業務ごとに手順が異なるため、特定業務の手順を解析するほどの大量の学習データは収集できません。※よほど単調な業務であれば別です
少量のデータからプロセス解析することは可能ではありますが、正確性が実用レベルに達することはないでしょう。
整理すると、RPAのレベルが高まっていくことは事実ではあるものの、個々の企業ごとにプロセス解析を含めた自動化プログラム作成の自動化を実現することは困難と考えます。
AIとRPAの融合は部分的なレベルに留まると考えていますが、それには他の理由もあります。
ITツールの活用とはRPAを中心に考えるべきではありません。RPAはあくまでも特定の業務を自動化するためのツールであり、最適な業務効率化のツールとは限らないのです。
「RPAはどうなるのか?」「RPAはどこまでレベルが高まるのか?」
このような限定的な考え方は捨てたほうがよいです。核心はさまざまなITツールを活用した業務変革であり、事務作業そのものの継続が前提ではないのです。
現在、世の中にはさまざまなビジネスツールが存在しています。GoogleのWorkSpaseやAppsScript、MicrosoftのPowerプラットフォームなどはその代表でしょう。
これらは業務自動化を視点にしたツールではなく、業務そのもののIT化、効率化を実現するためのツールです。本格的に導入・活用を進めた場合、おそらく現在の事務作業は大きく形を変え、そもそも自動化は主点ではなくなります。
たとえば「データ入力・転記」の業務を考えてみましょう。それらの業務は、基本的にデータが必要な箇所以外がデータの発生源になっていることから生じた業務です。
そもそも、データ発生源を工夫しデジタル化することができれば、「データ入力・転記」の業務自体が不要、または超簡素化されます。
広い視野でITツールを活用した会社と業務自動化を中心に取り組んだ会社を比較すると、将来、両者には大きな差が生まれるでしょう。
前章で紹介したような業務効率化の視点とは別に、近年では「データアナリティクス」分野も発展しています。
GoogleのBigQueryを使ったデータ分析や、MicrosoftのPowerBIのほか、Tableauというデータの視覚化ツールも人気です。本記事のテーマは「ChatGPTやAI」ですが、さまざまなITツールや、今後、より発展し身近になるAIを活用していかにビジネスを成長させるのかは、すべて人間の戦略次第です。
つまり、ビジネスの成長はITツールやAIが握っているのではなく、常に人間が握っているのです。
「データアナリティクス」「プロセスマイニング」「機械学習」「AI」
今後、発展が見込まれる分野には限りがありません。
特定のITツールに固執するのではなく、デジタルテクノロジーやITツールの知見を持った「ビジネス改革の総合コンサルティング」が、今後、最も大きなビジネスチャンスを秘めている分野なのです。
今回は、RPAとChatGPTをテーマにIT業界の将来について記事にしました。後半になるにつれ抽象的な内容となりましたが、つまり、特定のIT製品に拘って考えることは合理的ではないのです。
企業がデジタル戦略を推進するために、重要なのは「学習」と「良質な情報の収集」の2点です。
AI、ITが急速な発展を遂げる現在、テクノロジー分野の学習を怠れば世の中の変化にすら気付けません。そして重要なのは「良質な情報」。
基本的に良質な情報は有料です。誰かが話していた内容や巷の話題、ニュースなどの大衆情報の価値はそれほど高くないのです。専門的な書籍や有料の情報サービス、シンクタンクと呼ばれる人々が発信する情報など、高い価値を持った情報を得るためには、その対価としてお金がかかります。
「学習」と「良質な情報」。この2点は、企業の成長に欠かせない重要な投資先と考えたほうがよいでしょう。